宇宙を“遠い世界”から日常のインフラへ

株式会社Synspective
執行役員ヤマトテクノロジーセンター長 衛星システム開発第二部ゼネラルマネジャー
森岡 肇様
衛星システム開発第二部マネジャー
内山 航様
インタビュー

衛星はなぜビジネスになるのでしょうか?

森岡:衛星は、測位衛星(GPSなどの距離測定)、通信衛星(電話など通信関連)、観測衛星の3分野に分かれます。私たちはその中の「観測衛星」です。観測衛星には光学衛星とSAR衛星があり、光学衛星は搭載カメラで色から対象を識別します。一方、私たちが扱うSAR衛星はレーダーでマイクロ波を照射し、その反射を拾って形状を観測します。そのため、昼夜や天候に関係なく24時間観測できます。

現在は世界的に、小型・超小型衛星で観測データを取得し、販売するビジネスモデルが広がっています。撮影データの主な顧客は、安全保障関係(防衛省、国土交通省など)、環境問題対策、災害観測です。SAR衛星は、洪水時の現場状況を昼夜・天候問わず迅速に把握できるほか、平時でも地盤沈下や地滑り、橋のたわみ、盛り土まで検出できます。

内山:途上国の都市開発では経済発展の様子も見られます。道路整備状況なども把握できるので、防災だけでなく、地方都市や新興国の経済発展を探るデータとしても需要があります。

衛星を大量に打ち上げる必然性や意義を教えてください。

森岡:複数機の衛星が同じ地点を撮像し、その差分を比較することで変化がわかります。だから、同じ場所をある程度の頻度で観測できる体制が必要なんです。1機だけでは全然足りないので、複数機を配置して、定期的に同じ地点を撮像できるようにします。そうすれば正しい比較ができます。

そして、量産体制は、部材パートナー企業の皆さん、設備治具制作企業の皆さん、人材支援企業の皆さん、検査や設計支援企業の皆さんなど、我々に関係するいろいろな方々の協力と支援が必要です。宇宙ビジネスは衛星を作る会社と関連する企業が一緒に産業の底上げをしていくことに意義があります。

Synspective社(SAR衛星)の強み・競合優位性はどういったところでしょう?

森岡:SAR衛星はフラットアンテナ方式を採用しており、広い範囲を歪みなく撮影できます。SAR衛星では、画像の端部分も歪が少ない点が強みで、例えばGoogleマップと重ねてもずれないので、過去の事例では能登半島地震の際は3回の観測で能登半島全域をカバーすることができました。さらに、SAR衛星は自身で電波(マイクロ波)を対象物に照射し、その反射を観測するため、太陽光を必要としません。そのため、雲の有無に関わらず、昼夜を問わず全天候で地表の撮像が可能です。 もう一つの強みは、SAR衛星から得たデータを、お客様の特殊な要望に応じて解析し、ソリューションとして提供できることです。単にデータを渡すだけでなく、現場の課題やニーズを直接伺い、それに合わせた形で提供しています。こうしたユーザー接点を持ち、衛星からソリューションまで一貫して提供できる企業は、世界でも珍しい存在なんです。さらに最近では、JAXAの「だいち4号(ALOS-4)」のデータサービス事業者としても選定され、自社衛星データとの組み合わせで新たなシナジーを創出しています。

参入障壁の高さは何が原因でしょうか?

森岡:小型SAR衛星を量産している会社は、世界でも5社ほどしかありません。参入障壁が高い理由は2つあります。

1つ目はテクノロジーの難しさです。SAR衛星は光学衛星に比べ、アンテナ構造や信号処理が格段に複雑で、設計・試験・運用すべてに高度な技術が求められます。

2つ目はキャッシュフローの長期性です。開発から投資を回収するにも時間がかかります。弊社は資金調達とIPOにより現在の体制を維持できていますが、JAXA基金や政府の支援も支えになっています。長期的な資金と信用力の確保は不可欠です。

工場の現状と量産体制について教えてください。

森岡:神奈川県大和市に自社工場があります。衛星専業のベンチャーで、量産を前提に自社工場を持っているのは珍しいと思います。年内に新世代設計の2機を打ち上げる予定です。工場では設計から組立、試験まで一貫して行える体制を整えており、現場と設計が密に連携しながら進めています。

内山:今は年産6基のペースですが、来年には年産12基を目指しています。量産化に向けて、現在は実証機から工業製品への移行フェーズにあります。その中で特に、製造技術や品質保証・品質管理の体制を強化しているんです。うちの部門だけでも過去1年で10数名を採用しており、これは大きな成果です。今後も積極的に採用を継続していく予定です。

森岡:我々の製造能力を増やすには、パートナー企業のキャパシティを増やすことも必要です。現状はまだまだ労働集約型なので、生産能力向上のための自動化や設備治具拡充には計画的な取組みが必要ですし、パートナー企業のキャパシティや計画としっかりすり合わせしていくことが大切です。そうした協力関係を広げながら、その中で、運用中の衛星を徐々に新しいモデルに置き換え、技術を更新し続ける世代交代を継続的に行い、「止まることが許されない」体制を維持し続けていきます。

最後にエンジニアへの期待、メッセージをお願いします。

森岡:衛星製造はまだ人の手に頼る部分が多く、設計段階から「どう作れば効率的か」を考える製造技術者や、自動化を進められるエンジニアを必要としています。弊社には自動車や精密機器など異業種からの転職者も多く、その経験が大いに活きています。社員の6〜7割は宇宙や衛星について未経験で入社していますが、1〜2年で重要な戦力になっています。

内山:私も異業種出身ですが、宇宙と聞くと特別に感じるかもしれません。でもものづくりの基本は同じです。「宇宙なんて無理」と思わず、生活の延長にある仕事として挑戦していただければ嬉しいです。

森岡:私も、最初は「宇宙って何?人工衛星って何?」というところから始まりました。それまでは、例えば電子デバイスや半導体、テレビなど電化製品などいろいろなモノづくりに関わってきましたが、宇宙に関係するのは初めてでした。しかし、宇宙に打ち上げるモノでもその延長線として捉えて取り組めるところがモノづくりの面白さだと実感しています。宇宙を知らない自分なんてなどと思わずに、モノづくりが大好きな人はぜひチャレンジしてもらいたいと思います。

企業情報

会社名株式会社Synspective
代表者代表取締役 CEO新井 元行
拠点東京都江東区三好3-10-3
事業開始2018年2月22日
事業内容・SAR画像データ販売・衛星データを利用したソリューションサービス
・小型SAR衛星の開発・運用

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